芸術情報学部、総合政策学部を擁する尚美学園大学(埼玉県川越市)は、東京オリンピックが行われる2020年にスポーツマネジメント学部を開設する。エンターテインメント系・ビジネス系分野との融合で社会のニーズに応える“新しいスポーツ学”を創出し、「一億総スポーツ社会」実現に貢献する人材を育成する。

 

拡大するスポーツの世界

 スポーツの世界の裾野は広い。それは、チケットの予約販売が始まり、施設建設が急ピッチで進む東京オリンピックの進展状況を見てもわかる。世界中から訪れる選手や観客をもてなすためにボランティアが外国語を学び、練習の場を提供する地方自治体とチームを派遣する国との国際交流も始まっている。もちろん、オリンピック開催中はハイレベルな競技に日本中が熱狂し、競技場は芸術や先端技術を駆使した壮大なエンターテインメントの場となって、感動のるつぼと化すだろう。

 国は第2期スポーツ基本計画の中で、東京オリンピックの盛り上がりを契機に「一億総スポーツ社会」の実現を掲げている。スポーツへの関わり方にはスポーツを「する」だけでなく、「みる」「ささえる」もあるとし、すべての人々がスポーツに関わることでスポーツの楽しさや感動を知り、スポーツの力によって人生を楽しく健康で生き生きとしたものにする社会を目指すとしている。そしてそのためには、スポーツ界が他分野との連携・協働をさらに進めることが必要とし、スポーツ市場規模を約5.5兆円(2012年)から2020年には約10兆円、2025年には約15兆円に拡大することを目標としている。

 

広がる社会のニーズに応えるスポーツマネジメント学部を開設

 尚美学園大学は、2020年にスポーツマネジメント学部スポーツマネジメント学科を開設する。「音楽の尚美」として知られる尚美学園大学が、なぜスポーツ分野の教育に力を入れるのか。それは上に見たスポーツ界の発展と、尚美学園大学の教育実践が重なってきたからである。スポーツはアスリートだけのものではなく、国民全体のものであり、尚美学園大学が得意とする分野のエンターテインメントに近づいてきたということだろう。

 尚美学園大学は、芸術情報学部と総合政策学部の2学部で開学して以来、音楽を始めとした芸術、情報表現、総合政策、スポーツ、文化など、社会のさまざまな分野で広く活躍できる人材の育成を進めてきた。原点である音楽を芸術としてだけではなく、エンターテインメントやビジネスとしてとらえ、最初に音楽ビジネスを学問として打ち出してきたのも尚美学園大学だ。そして、音楽とスポーツ、ディジタルと舞台表現の融合など、分野を超えた複合的な学びが大学の特色となった。スポーツマネジメント学部開設に伴って廃止される総合政策学部ライフマネジメント学科スポーツコースでは、すでにスポーツとエンターテインメントの融合という学びが実践されてきたことも新学部開設につながっている。

 

仕事に直結した履修モデルで実践力を養成

 スポーツマネジメント学部の目的は、スポーツに関連するさまざまな場面で活躍する人材を育成することである。そのためには「ビジネス、マーケティング、イベント、エンターテインメント、データ分析、教育・指導、ウェルネスなど、多方面からスポーツにアプローチする学びが必要」と、学部長就任予定の小泉昌幸先生は語る。

 カリキュラムは、あらゆる視点からスポーツをマネジメントする理論・知識・技能を学ぶ科目を設定し、1・2年次は基本科目、3・4年次は展開科目を通して段階的な内容を学習する。さらに、「ビジネス系(経営・事業管理)」「コーチング系(教育・指導)」「クリエイティブ系(イベント企画・演出)」など、仕事に直結した科目群からなる履修モデルによって、座学と演習、実習を組み合わせた実践的な学びができるようになっている。

 スポーツ関連企業、行政機関、非営利団体などの現場でインターンシップを行う「スポーツマネジメント実習」、スポーツイベントをプロデュースするために必要な知識を身につける「スポーツイベント演習」、プロスポーツクラブの運営について議論し、フィールドワークを行う「スポーツマーケティング演習」など、科目名を見るだけで若者に魅力的な学びとなっていることがわかる。また、保健体育などの教職免許(中学・高校)も取得できるなど、きめ細かなサポート体制が準備されている。

 設備面を見ると、人工芝のサッカー場や照明設備のある硬式野球場、陸上トラック、公式戦が行える広さの剣道場、最新のマシンが設置されたトレーニング・ルーム、2000年記念館(体育館)などの体育施設はもちろん、エンターテインメント系のディジタル機器や設備も揃っていて、プロ仕様の最先端・最新の機材も自由に使うことができる。

 尚美学園大学の学びの特徴の一つに学部間のコラボレーションがある。スポーツマネジメント学部も芸術情報学部、総合政策学部と積極的に連携することになっており、たとえば、音楽メディアなどを学ぶ音楽応用学科や、音響・映像・照明などを学ぶ情報表現学科などと連携し、スポーツの本質を感じて楽しめる映像制作について学ぶこともできる。総合政策学部とのコラボレーションでは、スポーツ市場について経済学や経営学からアプローチし、これまでにないユニークなスポーツ政策のための、さまざまなノウハウを身につけることができるだろう。

 

卒業後は、多様で幅広い分野が待っている

 卒業後の進路は多様で、幅広い分野に広がるだろう。新しいスポーツ種目が次々にうまれ、バーチャルな世界で繰り広げられるeスポーツが注目を浴びているように、スポーツ界は急速な広がりを見せているからだ。

 スポーツ基本計画では「年齢、性別、障害の有無等に関わらず、スポーツは誰もが参画できるもの」とし、「スポーツは共生社会や健康長寿社会の実現、経済・地域の活性化に貢献できる」と、社会を変えるスポーツの力に期待している。そのため進路先としては、トップアスリートの世界から地域スポーツ・学校体育、医学・リハビリテーション、障害者スポーツ、メディア業界、IT業界など、実に多様な分野・領域、業界が想定できる。

 スポーツ界の拡大発展に伴ってスポーツに関連する職種は増え、幅広い知識と実践力、チャレンジ精神を持った人材に対するニーズは高い。

 たとえば、スポーツクラブも、地域スポーツの担い手として「子育て支援」「学校との連携」「スポーツを通じた健康増進」「他の総合型クラブや他のスポーツ団体との連携・トップアスリートの活用」「メディア・情報技術を活用した健康管理や広報」など、特色ある活動を展開するようになっている。スポーツに関する知識だけでなく、経営や企画に関する知識、他業種や各種団体との交渉力、さらにはITに関するスキルが求められていることがわかるだろう。

 具体的な卒業後の職業としては、スポーツチームの監督・コーチや運営スタッフ、スポーツインストラクター、フィジカルスタッフ、スポーツ関連企業の商品企画・営業・広報、スポーツイベントディレクター、演技プログラム振付・BGM担当スタッフ、公務員(生涯スポーツ政策の立案・推進)、スポーツメディアディレクター、スポーツ雑誌編集者・記者・ライター、スポーツコンテンツ制作スタッフ、スポーツ動画・Web配信サービススタッフ、中学・高校教員(保健体育)、医療・福祉スタッフ、幼児体育指導員などが想定される。

社会のなかでスポーツがどのような存在になっているか、感じ取ってほしい

スポーツマネジメント学部を目指す高校生に対して小泉昌幸先生(学部長就任予定)は、「受験前、入学前には、自分の好きなスポーツだけでなく、さまざまなスポーツのニュースなどにアンテナを張ってください。実際にスポーツ活動をしたり、試合を観戦したりするのもいいし、スポーツを題材にしたドラマを観たり、本を読むのもいいと思います。町のなかで掲示されたり、インターネット上に告知されたりしているスポーツの情報をチェックするのもいいでしょう。社会のなかで、スポーツがどのような存在になっているか、見たり、聞いたり、肌で感じ取ったりしてもらうといいと思います」と語っている。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

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