昭和女子大学とテンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ) は、2019年4月から、世界各国の食文化を学生食堂のメニューとして提案・紹介するプロジェクト「世界食堂」を実施しています。この国際色豊かな企画の全容について、同プロジェクトの関係者の方々にお話を伺いました。

 

異国の食文化と栄養バランスを両立させるための工夫

 「世界食堂」は、昭和女子大学が2020年に創立100周年を迎えることを記念する事業の一環としてスタートしました。テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ) が昭和女子大学の敷地内に移転することが決定したことを契機に、世界各地のさまざまな料理を昭和女子大学の学生食堂ソフィアで提供するメニューとして共同提案し、それによって両大学の学生による「食」を通じた異文化交流・異文化理解を促進するというアイデアが発案されました。

 昭和女子大学では2011年度後期から、在学生自身が健康で美しい女性になるための活動をするという目的で、「輝け☆健康『美』プロジェクト」が実施されています。その活動の一環として、栄養バランスの整った学食メニューの提案を、同大学の生活科学部管理栄養学科の学生が中心となって実施しています。女子学生が1日に必要なエネルギーおよび栄養素の3分の1を満たせるメニューを予算内で考案し、それを学生食堂の給食受託会社の方々が業務用の調理設備で滞りなく提供できるように調整するためのノウハウは、この「輝け☆健康『美』プロジェクト」を通じて、ある程度蓄積されていました。

 「世界食堂」ではそれに加えて、世界各国の料理をできるだけ忠実に、健康的に再現するというテーマが加わります。たとえば、第一弾のメニューとして選ばれたのはテンプル大学の本拠地があるフィラデルフィアの名物料理、フィリー・チーズ・ステーキ。肉とチーズをパンで挟んだこの料理は、ボリューム満点である反面、栄養価の側面では課題が山積みだったそうです。

 「どうしてもエネルギーが多くなってしまいがちなので、パンを少し小さめにしたり、つけあわせのコールスローサラダにはヨーグルトをドレッシングとして使ったりして、メニュー全体での栄養バランスを調整していきました」と語るのは、昭和女子大学の生活科学部管理栄養学科の清水史子准教授。

 「世界食堂」でどの国のどんな料理を提供するのかというメニューの選定には、「輝け☆健康『美』プロジェクト」のメンバーのほか、昭和女子大学100周年記念事業が募集した一般応募のボランティア学生の方々、そしてTUJが募集した「グローバル・フード・アンバサダー」のボランティア学生が参加しています。各国ごとの食文化の違いを学びながら、それらを学生食堂のメニューとして実現するためのアイデアと工夫を相談しました。

 「日本の食材や調味料でフィリー・チーズ・ステーキを再現しようとすると、牛丼みたいな味になってしまうんです。試食会で意見交換をしながら、できるだけ本場の味に近くなるように調整していきました。ほかの国の料理も、完全に同じ味にするのは難しいのですが、『世界食堂風』のメニューとして自信を持って出せるように工夫しています」と、TUJのグローバル・フード・アンバサダー、日本語学科2年生のイアン・スキバスキさんは話しています。

 

両大学の密接な連携で育っていくプロジェクト

 また、このプロジェクトでは「輝け☆健康『美』プロジェクト」のメンバーのほかに、プロモーション全般と、両大学間の学生のコミュニケーションをサポートするグローバ広報チームが、ボランティアの学生の方々によって運営されています。通訳や資料の翻訳、プロジェクトの公式ロゴマークの策定など、その活動は多岐に渡っています。

 「他の国から来られている学生の方から話を聞いてみると、日本では知られていない意外な料理をよく食べていたり、自分の持っていたその国に対するイメージと全然違うことがわかったりして、驚くことがよくあります」と話すのは、初等教育学科3年生のグローバル広報チームの畠山彩音さん。

 学生から教職員まで、両大学の密接な連携によって進められてきた「世界食堂」のプロジェクトは2020年11月までの活動と計画されていますが、両大学での評価によっては、その後も継続されていく可能性があるとのことです。実際、2019年10月のチーズステーキ風ランチは、同じ価格帯の定食の倍の数に相当する注文があり、味の評価も上々だったそうです。

 これからのグローバリゼーションの時代には、国や宗教、文化の違いを超え、多様性を自然に認め合い、協力し合うことのできる人材が不可欠です。「世界食堂」は、実践的な学びの中でそうした人材の育成に寄与することのできるプロジェクトと言えるでしょう。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

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