北海道大学大学院薬学研究院の木原章雄教授らの研究グループは、アシルセラミド産生に関わる酵素遺伝子の中でも最後まで未同定なまま残されていた遺伝子(PNPLA1)の同定に成功し、アシルセラミド産生の分子機構の全容を解明した。

 皮膚バリアは、病原体やアレルゲンなどの侵入を阻止する生体の防波堤のような役割をしている。そのため、皮膚バリアの異常はアトピー性皮膚炎や魚鱗癬などの皮膚疾患を引き起こす。
皮膚バリアの本体は脂質であり,その中でもアシルセラミドと呼ばれる脂質が最も重要であることが近年の研究で明らかになっている。アシルセラミドの存在は30 年以上も前から知られていたが、生体内でどのように作られるのかは明らかにされていなかった。

 木原教授らの研究グループは、アシルセラミド産生の分子機構の解明に取り組み、これまでに産生経路の中間体の解明、化学反応の順序の解明および関連酵素遺伝子の同定に成功してきた。しかしアシルセラミド産生の最終ステップに関わる酵素遺伝子の同定が不明なまま残されていた。これを解明することは、アシルセラミド産生の全容解明につながるばかりでなく、皮膚バリア形成の分子機構解明のためにも重要な問題であった。

 今回、研究グループは、オメガ水酸化超長鎖セラミドを産生する培養細胞系を確立し、この細胞を用いてアシルセラミド産生活性の評価を行った。その結果、アシルセラミド産生の最終ステップを触媒する酵素遺伝子として、PNPLA1を同定することに成功した。PNPLA1タンパク質はオメガ水酸化セラミドに脂肪酸であるリノール酸を付加してアシルセラミドを作り出す反応を触媒する。研究グループは、このリノール酸の供給源がトリグリセリド(グリセロールに3 つの脂肪酸が付加した中性脂質)であること、PNPLA1タンパク質はトランスアシラーゼと呼ばれる酵素に分類されることも生化学的な手法によって明らかにした。また、PNPLA1は先天性魚鱗癬の原因遺伝子として知られていたが、今回の結果によって遺伝子変異と病態の関連も明らかになった。

 アトピー性皮膚炎は未だに対症療法に頼っており、また、魚鱗癬の治療薬は全く存在しない。これらの皮膚疾患の有効な治療薬の開発には病気の原因となっている皮膚バリアの回復が不可欠だ。
今回、皮膚バリア形成に最も重要な脂質であるアシルセラミドの産生の分子機構の全容が解明されたことにより、今後アシルセラミドの産生を増強する化合物の探索を行うことが可能となり、皮膚バリア増強という新たな方策による皮膚疾患治療薬の開発が期待されている。

北海道大学

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大学ジャーナルオンライン編集部

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