我々の皮膚や膣に常在する真菌の一種であるカンジダ菌。通常は人体に害を及ぼすことはないが、抗癌剤や抗菌薬、ステロイドなどの投与によって免疫系と細菌叢の恒常性が攪乱されると、病原性の高い状態に変化して増殖をはじめ、口腔粘膜・外耳道・陰部・手足の指間部にしつこい痛みとかゆみを伴った発疹をひきおこすことがある。しかし、カンジダ菌の「どのような成分が、どの細胞の、どのような受容体を刺激することで」こうした不快情動が惹起されているのか、これまで全くわかっていなかった。

 大阪大学と自然科学研究機構生理学研究所などの研究グループは、カンジダ菌の構成成分である多糖類の一種「CSBG」が、皮膚の上皮細胞を刺激してアデノシン3リン酸(ATP)分泌顆粒の放出を促し、結果としてこのATPが末梢の痛覚神経を刺激し、痛みやかゆみを発生させていることを明らかにした。

 ATPは細胞のエネルギー源として重要な物質で、小胞性ヌクレオチドトランスポーター(VNUT)とよばれる分子の働きにより、分泌顆粒の形で細胞質にストックされていることが知られる。そこで、VNUT阻害効果を持つ治療薬をマウスに投与したところ、CSBGによる痛みやかゆみが顕著に改善した。このことから、VNUTは真菌随伴症状をとるための理想的な治療標的であることがわかった。

 今回の報告は、世界にさきがけて真菌感染随伴疼痛の発現機構の全貌を明らかにしただけでなく、同時にその治療標的を見出すことにも成功したもの。これらの知見は、「感覚免疫学」ともいうべきあたらしい学際領域の創生に資する重要な発見だとしている。

論文情報:【iScience】he ATP transporter VNUT mediates induction of Dectin-1-triggered Candida nociception.

大阪大学

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大学ジャーナルオンライン編集部

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