農業・食品産業技術総合研究機構と豊田工業大学の研究グループは、ミノムシの糸の強さを調べ、その強さが高度に形成された秩序性階層構造に起因することを解明した。強い人工繊維の設計指標としての活用とミノムシ糸の産業化が期待される。

 2018年12月に、ミノムシの糸が弾性率・破断強度・タフネスについて世界最強とされるクモの糸を上回ることを、農研機構と興和株式会社が発見し、ミノムシの習性を利用して1本の長い糸を真っ直ぐに採糸する方法を開発していた。研究グループは今回、ミノムシの糸の成分であるタンパク質の1次構造(アミノ酸配列)や2次構造(コンホメーション)、高次構造(結晶構造やその凝集状態)を詳しく調べ、糸の強さの秘密を探った。

 その結果、ミノムシの糸は、結晶領域と非晶領域が周期的に繰り返す秩序性階層構造から成り、その秩序性はカイコやクモの糸に比べ圧倒的に高いことが分かった。さらに、この構造はシルクタンパク質のアミノ酸配列の特徴により生じており、引っ張ったときに糸に働く応力が個々の結晶に満遍なく分散し、応力が糸全体に効率良く伝搬されて他のシルクより高い弾性率、すなわち硬い性質を発現していた。

 また、放射光施設(SPring8)の高輝度X線を利用し、繊維の延伸過程で生じる構造変化を調査すると、糸が伸ばされる過程でも高秩序性階層構造は崩れず、糸の切断まで維持した。高破断強度・高タフネスな性質はこの構造に起因することが分かった。

 ミノムシの糸は環境に優しく持続可能社会に適した素材として注目され、産業利用の試みもすでに始まっている。今回の成果により民間企業が目指すミノムシ糸の産業化が、今後一層進むことが期待される。

論文情報:【Nature Communications】A Study of the Extraordinarily Strong and Tough Silk Produced by Bagworms

大学ジャーナルオンライン編集部

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