九州大学の奥村健一特任助教(先端素粒子物理研究センター)は欧州原子核研究機構のLHC実験で探索中の超対称粒子の質量が持つ新しい性質を発見した。

現在実験的に検証されている最も基本的な素粒子理論は標準模型だが、宇宙の暗黒物質の存在など説明できない現象があり、さらに基本的な理論があると予想されている。中でも超対称理論が有力とされる。超対称理論では標準模型の全ての素粒子に対しペアとなる新しい素粒子「超対称粒子」が予言される。

 超対称粒子の質量は「超対称性の破れ」により生じるが、奥村特任助教は量子重力理論の候補である超弦理論が示唆するモジュライ媒介と呼ばれる超対称性の破れを詳しく調べた。そして超対称粒子の質量にこれまで存在するとされていた重い素粒子からの量子力学的な補正が、ある条件のもとで消えることを発見した。

 例えばニュートリノの小さな質量を説明するシーソー機構では重い右巻きニュートリノが予言される。この右巻きニュートリノはミューオンや電子の超対称ペアの質量に量子力学的な補正を与え、これにより理論の広い領域で実験の制限を超えるミューオン電子転換過程が生じると予言されていた。新しい性質が成り立てばこうした過程は抑制され、ある種の大統一理論に基づく模型など既に棄却されていた模型が生き返って今後の実験的探索の対象になる。この新しい性質は他にも超対称理論の様々な予言に影響を及ぼす可能性がある。

論文情報:【Physical Review Letters】Hide and Seek with Massive Fields in Modulus Mediation

九州大学

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