名古屋大学の森郁恵教授と貝淵弘三教授らの研究チームは、線虫を使った実験から新たな記憶メカニズムを発見しました。記憶の形成はこれまで神経細胞間のネットワークによって行われると考えられていましたが、単一の細胞でも可能であることが分かりました。

 線虫は土の中などに生息する体長1mmほどの生物で、実験動物として広く利用されています。研究チームはこれまで線虫の記憶・学習のメカニズムを調べてきました。一定の温度でエサを与え続けると、エサの有無にかかわらず過去の体験からその温度の場所に移動することが分かっています。さらに、飼育していた温度ではAFDという神経細胞が活発に働くこと、AFDと接続する他の神経細胞に変異を起こした個体でもこの反応が起こることから、細胞単独での温度記憶を形成をしている可能性が指摘されていました。

 研究チームはAFDが単独で記憶を形成していることを確認するために、他の神経細胞から隔離した条件で培養し、温度記憶が形成されるかを検証しました。その結果、培養した温度で活動が活発になる温度記憶を確認することに成功しました。次に細胞内の何がその記憶を担っているのかを確認するために様々な遺伝子に変異を起こした細胞を用いて解析を行いました。そしてcmk-1という遺伝子が壊れた細胞では記憶に異常が起こる様子を観察することができました。さらにこの遺伝子によってつくられる酵素の働きについても明らかにすることができました。この酵素および酵素が作用するタンパク質の一連の働きによって記憶を形成していたのです。

 これまで神経細胞のネットワークが記憶を蓄積するものと考えられてきましたが、一部の神経細胞は単独でも記憶が可能であることが初めて示されたことになります。これは動物の記憶メカニズムの完全解明に大きく寄与する成果です。

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