徳島大学大学院医歯薬学研究部人類遺伝学分野の井本逸勢教授、増田清士准教授らと、京都府立医科大学消化器外科の大辻英吾教授、市川大輔准教授らの研究グループは、血液中のがん由来DNAを解析する技術により、胃がんにおける分子標的治療薬の標的であるHER2遺伝子増幅を高感度・高精度に低侵襲で検出できる方法を開発しました。血液で診断できることで、再発の監視や治療効果の予測・判定がリアルタイムに行えることになり、今後の胃がん治療に有用なツールとなる可能性があるとしています。

 HER2遺伝子増幅によるHER2分子の活性化は、乳がんや胃がんの悪性化の原因となることがあります。現在は手術時のがん組織を用いて、その陽性・陰性が診断され、がん再発時に分子標的治療薬などによる薬剤治療が行えます。しかし、HER2陽性胃がんでも、再発したがんの中にHER2増幅細胞が増えていない場合は分子標的薬の効果は低く、また、HER2陰性でも、がんの中のわずかな HER2増幅細胞が見逃されて、再発時に増えた場合は分子標的薬による治療はできません。再検査でがん組織を取ることも侵襲が大きいとされます。

 今回開発した、血液中に流れるがん由来のDNAから高精度にHER2遺伝子の増幅の有無を判定する方法は、採血のみで判定可能なために低侵襲で何度でも行うことができます。同グループでは、今回 Droplet digital PCR法というデジタル技術を用いることで、より安定で高感度、高精度に検出が可能になり、臨床現場での実用化に近づいたとのことです。

 今回の研究によって、いくつかの臨床的に重要な知見が得られ、HER2増幅の程度を示す値を確認することで、再発のモニターや治療効果のマーカーになることもわかりました。今後研究グループでは、症例を増やして臨床的な有用性を確認するとともに、検査の実用化のためのさらなる技術開発を進めていくとのことです。

大学ジャーナルオンライン編集部

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