名古屋大学大学院医学系研究科の研究グループは、理化学研究所多細胞システム形成研究センターとの共同研究で、大脳の発生時期に沿った神経前駆細胞の変化と細胞周期進行との関係を明らかにし、英科学誌「Nature Communications」電子版に発表した。

 哺乳類の大脳が発生する過程では、未分化の神経前駆細胞は分裂を繰り返しながら発生時期に応じた各種ニューロンを生み出していく。しかし、神経前駆細胞の性質が時間軸に沿って変化する仕組みは不明であり、「細胞は自身の細胞分裂の回数を数えて発生の時刻を計るのか」という生物学における基本的な疑問として存在していた。

 本研究グループは、それぞれ発生時刻の異なるマウス神経前駆細胞の遺伝子発現を解析、その結果、細胞の分化状態とは関係なく時刻の進行に伴い変化する「時間軸遺伝子」を発見した。時間軸遺伝子の発現は、発生途中のマウスの脳内で神経前駆細胞の周期進行を止めても変化を続け、その後に進行を再開させると、細胞は正しい発生の時刻に応じたタイプのニューロンへ分化したという。
これらの実験結果から、細胞周期を止めても、神経前駆細胞内では時間軸遺伝子により自律的に時間経過に伴う変化を引き起こす仕組み、いわば「時計」にあたるものが機能していること、この細胞内にある仕組みと細胞外からの調整とが協調して、発生時期に応じた神経前駆細胞の振る舞いが決まることが明らかとなった。

 本研究から、神経前駆細胞は「細胞分裂の回数を数えて発生の時刻を計っている」のではなく、発生時刻を刻む「時計」をもとにしているという答えが示された。今後、未分化な神経前駆細胞から特定の役割を持つ細胞が生み出されるメカニズムの解明につながることが期待される。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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