「自発的精神の涵養と個性の発見伸長を目指す、真の人間教育」を教育理念に、100年を超える歴史を刻んできた成蹊学園。その中にあって、Society5.0※1においても通用する人材の育成をと改革に舵を切った成蹊大学。2020年に向けての改革――「成蹊ブリリアント2020」について、1968年以来、約半世紀ぶりとなる新学部開設※2などを中心に、その背景、ポイント、目指すところを北川学長にうかがいました。

※1:IoT、ビッグデータ、AI、ロボティクスなどの進歩(しばしば「第四次産業革命」と呼ばれる)によって到来する社会。
※2:1968年には、政治経済学部を改組し、経済学部および法学部を開設

 

100年の伝統を継承する成蹊Way

――「ゼミの成蹊」「プロジェクトの成蹊」「コラボの成蹊」

 成蹊学園が100年以上にわたり追い求め、築き上げてきた教育は、大学教育においては「ゼミの成蹊」「プロジェクトの成蹊」「コラボの成蹊」のキャッチフレーズに集約され、成蹊Wayと呼ばれています。大正自由教育の旗手と言われた創立者中村春二は、教育には「師弟の心の共鳴」が欠かせないと考え、生徒一人ひとりをかたちの違うコップに譬えて、離れたところから一律に水を入れるのではなく、ごく近いところからそれぞれをしっかり見ながら入れるべきだと、風刺画も添えて語っています(図)。少人数制で、先生と生徒が至近距離で向き合う。これが「ゼミの成蹊」として大学に引き継がれています。

 

 成蹊学園はまた、創立以来、体験型学習を重視してきました。今でいうPBL(Project Based Learning)にも当たるもので、時に失敗する子どもたちに、それを通じて考えさせる。フィールドにも出て、本物や実物に触れる。また本物を探したり、本物を作ったりもします。これが「プロジェクトの成蹊」の原点です。

 戦前の成蹊女学校では、日光への植物採集旅行で実際に植物を手にとって、食べられるものとそうでないものについて生徒に教えました。この時、生徒たちの指導に招かれたのは後に世界的に名声を博す植物学者、牧野富太郎博士。できるだけ本物に触れることを大切にしてきたのです。

 旧制高校では、学内の芝生の植え替えは生徒が自らプロジェクトを組み、リーダー、係を決め、手順も考える。現在も課外活動、インターンシップや留学など、教室の外の学びを大切にするのは、こうした伝統を受け継ぐものです。

 「コラボの成蹊」の原点は、旧制高校時代の浅野孝之校長の掲げた「大家族主義」に見られます。成蹊に通う児童・生徒・学生、教職員・卒業生はみな家族であり、何かするときはみなで協力して一緒にやろうという考え方です。現在の学園本館の建物では、ある時までは大学・高校・中学が一緒に学んでいましたし、昭和初期には学園の児童・生徒が食堂で一緒に食事をとっていました。また大学ではこれまで、都内の大学では珍しくなったワンキャンパスの利点を生かし、全学部、全サークルがまざりあって活動してきました。全学部横断型の丸の内ビジネス研修MBT(コラム参照)にも、この伝統は受け継がれています。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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