大阪大学大学院工学研究科の和田直樹特任助教らは鳥取大学との共同研究で、人間と植物の部分的な細胞融合に世界で初めて成功した。進化を通して保存されている生命の基本原理の解明と有用生物の育種が期待される。

 植物と動物は、約16億年前に共通祖先から分岐し、それぞれ独自の進化を遂げてきたが、お互いのどのような機能がどの程度保存されているのかは不明であった。その解明のため、ヒトと植物双方の染色体を持つ融合細胞を作製する試みが40年前から行われていたが、実際に、増殖可能な融合細胞の作製に成功した報告は一つもなかった。

 研究グループは、シロイヌナズナ(アブラナ科)由来の細胞とヒト細胞を融合する条件・方法の検討を重ね、部分的にヒトと植物の融合細胞の獲得に成功した。ヒトの全染色体が維持され、ヒト細胞と同等の細胞環境であるとみられるこの融合細胞には、植物の染色体領域を持つヒト/植物染色体が観察された。さらに培養するとヒト/植物染色体が構造変化を起こし、植物DNAのみを持つ独立した染色体となった。この植物染色体は安定に維持されていることから、これはヒト染色体を維持する仕組みが植物染色体にも働いていると考えられる。また、解析の結果、維持されているさまざまな植物遺伝子が融合細胞中で発現していることを確認。これは、ヒトと植物の間で遺伝子発現の仕組みが保存されていることだという。

 今回開発したヒトと植物の融合細胞は、生物がどのような性質を残しつつ長い進化の道をたどってきたのか、その生命の基本原理の解明に貢献するとされる。また、異種ゲノム、染色体導入による人類にとって有用な生物の育種を加速化させることが期待される。

大阪大学

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