東京農工大学の菊田真吾助教らの研究グループは、農研機構、カザン大学(ロシア)、理化学研究所と共同で、乾燥しても蘇生できる昆虫ネムリユスリカから樹立された細胞が、人為的に導入した酵素の活性を乾燥条件下でも、ほぼ完全に保護できることを実証した。これにより、これまで冷蔵・冷凍保存を必要とした酵素や抗体などを、常温のまま乾燥させて長期間の保存が可能になる。

 酵素は化学反応を促進する生体触媒だ。変性を避けるために、低温条件下での運搬や保存を必要とする。一方、干からびても元通りに蘇生できるネムリユスリカから作製された培養細胞は、乾燥に対して耐性を示す。この細胞に人為的に導入した酵素の活性を、乾燥条件下でも保護できるかどうかは不明だった。

 研究チームは、乾燥で壊れる酵素としてルシフェラーゼを選び、安定的に発現するネムリユスリカ細胞(Pv11-Luc)を樹立した。この細胞を高濃度のトレハロース溶液に浸して脱水させ、ガラス状態にした。シリカゲルを入れ乾燥状態を維持した箱に、25℃で1年以上置いた後、水を加え、細胞を元の状態に戻した。その結果、細胞が蘇生し、ルシフェラーゼの活性も検出された。この酵素活性は、生存細胞数に依存していた。これは、ネムリユスリカ培養細胞が生き延びていれば、ルシフェラーゼをほぼ完全に保護できることを示している。

 今回の成果は、ネムリユスリカの乾燥耐性機能とトレハロースを組み合わせることで、エネルギーフリーな酵素の保存技術に展開される。今後、医療用診断酵素や抗体など冷蔵・冷凍保存が望まれる生体資料の保存、電力供給が乏しい地域や災害時での安定的な貯蔵と運搬などへの応用が期待される。

論文情報:【Scientific Reports】Towards water-free biobanks: long-term dry-preservation at room temperature of desiccation-sensitive enzyme luciferase in air-dried insect cells

東京農工大学

農学、工学の視点から「持続発展可能な社会の実現」に向けた課題解決を目指す国立科学技術系大学。

東京農工大学は1949(昭和24)年に東京農林専門学校と東京繊維専門学校が統合して設立されました。しかし、その起源は明治7年(1874年)に設立された内務省農事修学場と蚕業試験掛にまでさかのぼります。現在では農学部と工学部からなる唯一の国立大学としてこれらの知[…]

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