名古屋大学の吉岡博文准教授らの研究グループは植物免疫を支配する遺伝子が活性酸素の生成を促すメカニズムを解明しました。活性酸素は植物が病原菌から身を守る際に免疫の信号として使われるため、農作物を病害に強くする技術につながるかもしれません。

 世界の人口が爆発的に増加している現在、発展途上国で大きな問題となっている飢餓は今後益々深刻になっていく事が予測されています。こうした食糧問題を解決するために病害による収穫量の減少は解決すべき重要な課題です。また、バイオ燃料の需要の高まり対応するためにも、生産の効率化が望まれています。植物の耐病性を高める技術はこうした観点から非常に重要な研究テーマとなっています。

 植物病原菌は自分のタンパク質を植物細胞内に注入することで、防御反応を抑え込み感染します。これに対して植物側もこのタンパク質を検出して各種免疫反応を誘導します。このカギになるのが活性酸素の生成です。植物の体内で活性酸素が作られることで様々な免疫反応が発動するのです。しかし、どのようなメカニズムで活性酸素が生成されているのかはこれまでよく分っていませんでした。
 研究グループの以前の研究では、病原菌がタンパク質を注入した時に活性化される酵素の存在を突き止めていました。そして今回の研究では、この酵素の働きでWRKYという物質にリン酸を結合させることで、活性酸素の生成反応に関わる遺伝情報が転写されることを世界で初めて発見しました。さらにWRKYの働きを強めることで病気に強い組換ジャガイモを作ることに成功しました。

 この技術を他の多くの植物に応用することができれば、将来の食料の安定生産やバイオ燃料の供給に貢献することができるでしょう。植物の免疫というと非常に基礎的な研究にも見えますが、人類が抱えている重要な問題の解決につながるかもしれません。

出典:【名古屋大】活性酸素生成を支配する植物免疫の仕組みを解明(PDF)

名古屋大学

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