Society 5.0へ向けて、求められる能力、教育の目的が世界的に変わる中、この方法は限界にきています。日本経済団体連合会会長による昨年の新卒一括採用についての発言はその象徴ではないでしょうか。「日本人はプロセスイノベーションに強くて、プロダクトイノベーションが弱い」、つまり「できたものをより効率的に生産していくのは得意だが、新しいものを作るのは苦手」などとも言われてきました。しかし、関西学院の二つの国際学校※7の生徒たちを見ている限り、これは教育や制度、組織のあり方によるものだと実感しています。

 この度の大学入試改革の目的の一つは、教科の学力という、人間の能力のほんの一部を問うことからの脱却です。アントレプレナーに求められる資質なども含め、偏差値で表される学力以外の能力を伸ばそうという意識が、教育において希薄になっていたことは否めません。新しい学習指導要領の下、今後、中学、高校では「主体的に学習に取組む態度」を育む探求型学習などが重視され、基礎学力の養成においてもこれまでとは違ったアプローチが図られます。大学としても、高校までの取り組みをしっかり受け止められる入学者選抜の方法を充実させ[左コラム]、これからの社会で求められる力、企業のニーズはあるが具体的には示せていない力、イノベーションを生むための力の育成に注力していかなければならない。日本の教育もここで変わらないと、社会や経済は危機的な状況に陥ると思われます。

※4:理数系人材の産業界での活躍に向けた意見交換会の記録をまとめたもの。「Society5.0の実現には、高い理数能力でAIのデータを使いこなす力に加え、課題設定し、それを解決していく力や、異なるものを組み合わせる力など、AIでは代替しにくい能力を用い、価値創造を行う人材が求められている」とある。
※5:「学習指導要領の変遷と失われた日本の研究開発力」。西村和雄(神戸大学特命教授)、宮本大(同志社大学)、八木匡(同志社大学)による。
※6:4月 17 日の中央教育審議会への諮問の中で、高等学校教育のあり方について「いわゆる文系・理系の類型にかかわらず学習指導要領に定められた様々な科目をバランスよく学ぶことや、STEAM 教育(Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)等の各教科での学習を実社会での課題解決に生かしていくための教科横断的教育の推進」とある。
※7:関西学院千里国際中等部・高等部と関西学院大阪インターナショナルスクール。

 

JEP(Japan e-Portfolio)事業

関西学院大学は昨年度まで、国の「大学入学者選抜改革推進委託事業(主体性等分野)」に採択され、 eポートフォリオを活用するなどの研究プロジェクトを行ってきた。今春には、複数の大学と一般社団法人教育情報管理機構を立ち上げ、引き続きeポートフォリオを入試に反映させていく仕組みについて研究する。

 

AI 活用人材育成プログラムとKwansei コンピテンシー

 本学ではこの春から、日本アイ・ビー・エム株式会社と組んで、全学部生を対象に「AI活用人材育成プログラム」を始めました。大学卒業後、営業や現場を統括する職種に就く学生であっても、これからはAIの知識、さらにはAIへどのようにデータを与えればいいのかなどを知っておかなければならないからです。

 AIに代替できない能力の育成も急務と言えます。この観点からは、卒業までに身につけるべき能力・資質を10のKwanseiコンピテンシー(下図)としてまとめました。

 


 知識、技能に関するものは二つしかなく、本学の重視する「誠実さと品位」が組み込まれています。もともと各学部には学位プログラムがあり、それぞれに入学者選抜、カリキュラム、学位授与の三つの方針(AP、CP、DP)がありますが、多くは知識レベルのアウトカム、アウトプットを求めていますから、それらに加え、すべての学生が学部の区別なく身につけるものと位置付けました。入学時と卒業時の2度の調査で達成度を測り、これに就職先や社会へ出てからの活躍の様子、あるいは入試の成績などを加味すれば、IR(InstitutionalReserch:大学経営に必要な調査や分析、またはその組織)の貴重な資料にもなるはずです。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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