磁場を横切る導線に生じる誘導起電力の計算は、高等学校の物理の教科書にも載っている馴染み深い問題だ。しかし、この誘導起電力が「ファラデーの電磁誘導の法則」と「ローレンツ力」という古典電磁気学上の全く独立な物理法則のどちらを使っても導出できることの理由は、これまでわかっていなかった。
筑波大学の小泉裕康准教授は、この奇妙な一致の謎を量子力学とゲージポテンシャルを用いて明らかにしたという。

 量子力学では、電子の運動は波動関数によって表され、電磁場で基本的な物理量は電場や磁場ではなくゲージポテンシャルである。小泉准教授は、誘導起電力の計算にこれを適用し、電子の運動を波動関数で記述すると同時に、電磁場をゲージ場とし、電場・磁場の代わりにゲージポテンシャルを用いた。その際、ゲージの自由度をエネルギー最小化という条件により固定したところ、動いている導線中の電子の量子状態を表す波動関数の位相因子が、電子の導線に沿った方向のローレンツ力による並進運動を表す一方、電場を生む時間依存したゲージポテンシャルにも見なせることがわかった。

 つまり、この前者の見方がローレンツ力を使う方法に、後者がファラデーの電磁誘導の法則を使う方法に対応し、古典電磁気学で見られた2つの本質的に異なる方法での奇妙な一致は、電子の量子状態を表す波動関数の位相因子の2重性によりつながっていた結果であることがわかった。

 この成果は、偶然のいたずらと考えられていた一致に理論的な回答をもたらしただけでなく、超伝導状態の波動関数に位相因子の2重性の考えを適用することで、超伝導量子ビットを使った量子コンピュータの開発にも貢献するものだという。

論文情報:【Journal of Superconductivity and Novel Magnetism】Flux Rule, U(1) Instanton, and Superconductivity

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