筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の坂口昌徳准教授らは、国立精神・神経医療研究センターや英国エジンバラ大学と共同で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)による汎化と呼ばれる症状が生じやすい時間帯が、心的外傷(トラウマ)直後に存在することを発見し、さらにその時間帯に既知の場所にいるとトラウマ記憶がその場所と結びつくことをはじめて示しました。 PTSDの予防と病態メカニズムの解明につながる成果だとしています。

 トラウマとなった出来事の記憶と、トラウマとは直接関連がない場所や事柄とを結びつける脳の働きを記憶の汎化と呼び、その現象による恐怖反応からPTSD患者は日常生活に困難を生じます。PTSDは治療期間が長く医療体制も不十分なため予防治療の開発が重視されながら、研究は症状発現後のものが中心でトラウマ直後のケアに不明点が多いとされます。本研究グループは、マウスに電気刺激を与えることにより汎化の条件を検討した結果、トラウマ学習直後の6時間以内に汎化が生じやすいことを明らかにしました。さらにこの時間内にPTSDモデルマウスが慣れ親しんだ場所に置かれると、学習した場所ではないにもかかわらず、その場所に特に汎化が起こりやすいことが判明しました。本研究は、トラウマ直後の症状に関する重要な脳内メカニズムの存在を示したという点で画期的なものとされています。

 本研究の結果から、PTSD患者に対してトラウマ直後から積極的にケアすることで、その後の汎化の予防につながる可能性が示されました。今後の展開として研究グループは、実際の患者を対象にした検討の継続、汎化が発生する条件と脳内メカニズムとの関係の詳細な解明、PTSD患者によく見られる睡眠障害と汎化に関する研究が必要だとしています。

筑波大学

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